堅物変人ドルフィーの一撃
ドルフィーは堅物かつ変人だ。
「堅物」「変人」というのはもちろん僕の独断と偏見である。今から22年前ジャズに目覚め始めていた大学1年の春、ある日TSUTAYAで買ったCDは何と世評が真っ二つに分かれる、悪妙高い「Out To Lunch」だ。
当時オタクだった僕は、Netflixでもドラマ化したアニメ「カウボーイビバップ」にどハマりし、当然タイトルオープニングの「Tank」にもハマった。ここがジャズ好きの原点だ。
知っている方はご存じだが、この2つの音楽はジャンルが同じなだけで、ロックでいえばイーグルスとキングクリムゾンくらい違う。
当時ネットもそこそこで前情報のない僕は、CDアルバムの青暗いクールさ一本で衝動買いしてしまった。
「しまった!」と強く後悔した。見た目に反して中身が小難しいのだ。
全部通して聴いてもその気持ちは変わらず、開封済みにも関わらず「間違えました」という意味不明な理由でTSUTAYAに返却した時の店員さんのあの何ともいえない表情は忘れられない。
少々脱線したが、ドルフィーは初心者が買っちゃいけないジャスマントップ3に入る。音は総じておどろおどろしく、サスペンスのバックミュージックみたいで落ち着かない。本人だけがギョルギョルとなんか別の事をやってる。フリーの一歩手間だ。
但しドルフィーの凄いところはフリーまで行ききらない。意外と真っ当なリズムセクションを採用し、枠にハマっている。
これが凡百のフリーミュージシャンとは一線を画し、ドルフィーがジャスジャイアントと呼ばれる理由だ。漫画「Blue Giant」に出てくるピアニスト沢辺がこんな事を言ってる。
「枠内ならどんなに勢いがあっても!!暴れ狂っても!!雑音じゃねえから!!」
アルバム1曲目「Hat And Beard」のドルフィーの不意に殴りかかってくるようなソロの入り。トニーウィリアムズのクリスタルのようなドラムを聴いて欲しい。痺れるから。
ドルフィーはトータルプロデューサーである。彼のやってきた音楽人生の完成形はここにある。
長い月日は嗜好の幅を拡げる。今となっては僕の愛聴盤の一つだ。是非聴いて欲しい。
ちなみにこのアルバムに入っている曲のカバーは意外と少ない。YouTubeで1,000回を超えたものはほとんどなかった。やっぱこんな変な音楽をカバーするのは難しいかー。