ハードバップの終焉と最後の輝き
ハードバップの頂点はいつか?
これには賛否がある。「Saxphone Colossus」の1956年、「Moanin'」の1958年、時代の移り変わりを感じる「Giant Steps」を収録した1959年と人それぞれだと思う。
ハードバップはマイルスが宣誓した「Walkin'」の1954年からブルーノートの4000番台中頃が収められている1960年頃までと考える向きが多い。
それ以降はファンキー・モードの後にソウル、フリー、新主流派等の時代を経てジャズは一旦その幕を閉じる事となり、1960年後半に時代はフォーク及びロックへと一気に傾倒する。
いかにもなジャズのお勉強コーナーになってしまった事をお詫びしたい。
ではハードバップの終焉はいつか?
僕は1960年を推す。ハードバップの終焉を飾る名作を数多く記録した年だ。僕はその中でもアート・ブレイキーの「A Night In Tunisia」がそれを象徴していると思う。
一曲目のタイトル曲、ブレイキーのドラムソロが終焉の始まりを告げる。ドラムとベースの緊張ある掛け合いの後、ガシャガシャし出したら通常合奏で入るテーマ部分をピアノがリード。サックス、トランペットの順でテーマを形作ってゆく。
トランペット・サックスの2ホーン通常クインテット編成ながら音のつくりがとてもハードでテンションも高い。とても5人のバンドとは思えない。
特にモーガンのトランペットが異次元だ。艶やかさでは58年の「Candy」や「Moanin'」に譲るが、それ以外のフレーズのキレ・スピード・構成と全ての面で上回っている。早撃ちの名手のベストプレーの一つだ。
相方のウェイン・ショーターも忘れてはいけない。この後開花する実力が垣間見受けられる。特に最後のカデンツァでのソロはハードバップの枠を簡単に飛び越えており、圧巻の締めに一役買っている。
天才小僧のリー・モーガンと新主流派の黒魔術師ウェイン・ショーターの1960年における「過去」と「未来」の交錯が、ハードバップという形態の終焉を表しているという僕の理論はあながち間違いではないと思う。
これだけの名演を収録しているにも関わらず、この大名盤はイマイチ人気がない。見たら納得、アルバムジャケットのクソダサいタイポグラフィの羅列。デザイナーであるリード・マイルスもこの時ばかりは手を抜いたに違いない。
「真面目に仕事しろ」
話は変わるが、昨日参院選で圧勝した自民党に同じ言葉を贈りたい。日本という世界に誇れる最高の材料を良くも悪くもするのはこれからの彼ら次第。
願わくば「A Night In Tunisia」の二の舞にならぬよう祈るばかりである。
Art Blakey / A Night In Tunisia
1.A Night In Tunisia
2.Sincerely Diana
3.So Tired
4.Yama
5.Kozo's Waltz
Trumpet : Lee Mogan
Tenor Sax : Wayne Shorter
Piano : Bobby Timmons
Bass : Jimmy Merritt
Drums : Art Blakey
Recording : 1960/8/7 ・ 8/14