ハードワークモブレー
「ハンク・モブレーはミドル級チャンピオンである。」これはハンク・モブレーを表す昔からのジャズ界の伝統フレーズだ。
このフレーズを最初にぶち上げたのは、かの有名な評論家兼ピアニストのレナード・フェザーであるが、この評論に僕は待ったをかけたい。
「ネームバリュー」という事では概ね賛同出来るが「テナーサックスを吹く力」という感覚で見れば話は別だ。
話が少し逸れるが、ミドル級とはボクシングの階級17階級中上から5階級目を指す。ちょっとモブレーに詳しい人ならこれを見て首を傾げると思う。モブレーは精々真ん中ライト級か一個上のスーパーライト級である。
ピンと来ないと思うので実際の数字でお見せしよう。ヘビー級のリミットが90.72kg、ミドル級72.57kg、真ん中ライト級61.23kg、一番軽いストロー級で47.62kgである。
ヘビー級がコルトレーンやロリンズと言われると、ちょっと下のミドル級にモブレーは入らない。ブッカー・アーヴィンやジョー・ヘンダーソンあたりが適任である。
モブレーの最も有名な名盤「Soul Station」やヒット盤「Dippin'」を引き合いにすればさらに理解頂けると思う。これらのモブレーは比較的ソフトに大衆受けするプレーをしており、とてもミドル級チャンピオンになるのは難しいだろう。
ただ一枚本当の「ミドル級チャンピオン」になった作品がある。それが隠れ名盤「Workout」である。
「練習」「トレーニング」といった味気のない訳とは裏腹には、ここでのモブレーは一世一代のプレーを披露する。いつもより苦み走った硬質な音を発しているのだが、これがまた良い。
一体何があったのか?普段のサイドマン根性をかなぐり捨てて、「俺もやりゃ出来るんだ!」というところを見せている。
サイドがウィントン・ケリー、ポール・チェンバース、フィリージョーのハードバップ最強トリオで固めてるいるから当然か。
これだけのプレーだ。この1ヶ月後、帝王マイルス・デイビスのブラックホークでのライブ盤にも参加し好演を披露している。モブレーのピークの一つだろう。
タイトル曲「Workout」、普段のほんわかフレーズは影を潜めて別人のようなアドリブを披露している。モブレーをバシバシと叩き締めるのは天才ドラマーのフィリージョー。彼らの邂逅はこんな素晴らしい作品を産み落としたのだ。
こんなアルバムを連発していれば名実ともにミドル級チャンピオンになれたのにな〜。ほんと残念でならない。
Hank Mobley / Workout
1.Workout
2.Uh Huh
3.Smokin'
4.The Best Things In Life Are Free
5.Greasin' Free
Tenor Sax: Hank Mobley
Piano:Wynton Kelly
Bass:Paul Chambers
Drums:Philly Joe Jones
Recorded:1961年3月26日