フィル・ウッズはマシンだ!
フィル・ウッズに会ったことがある。それも手の触れる距離で。
僕は20代の頃当時六本木にあった今はなきスィートベイジルで一時勤めた事がある。勤めたというと聞こえはいいが、すぐ辞めたので「居たこと」がある程度だ。
スィートベイジルは2014年にその幕を閉じるまで国内外の著名なアーティストを招聘し、六本木を賑わせたライブレストランの名店だ。
何でそんなとこに居たかというと、新卒で入った会社が先物取引の会社(こちらも今はない)で、今でいう超絶ブラックなのですぐ辞めた。当時他にやりたい事もなく、大好きなジャズに触れられるというしょうもない理由で勤めたのがスィートベイジルだった。
ここでは音響に配属された。当時は野口五郎やはジャズピアニストの松永貴志が出演したのを覚えてる。
そんな中、なんとあのフィル・ウッズが出演したのだ。彼は既に晩年を迎えていたがリハーサルで吹いた凄い音は、愛聴盤「Alive And Well In Paris」でシリアスかつ苛烈に吹きあげる若かりし頃の音と全く一緒だった。
ウッズはヨーロピアン・リズム・マシーンというバンドを組んでいたが正に「マシン」そのものだった。
目の前に憧れの存在が現れ、正直仕事どころではなかったと思う。近くに来た時に浅ましく握手を求めようとしたが、周りに止められ上司にガッツリ怒られたのは言うまでもない。
これだけの老舗だ。勤めてる者としてアーティストにプライベート感覚で接しようなど許されるはずもない。今思い返すと恥ずかしい限りだ。
さて、本盤はウッズが亡きジョン・F・ケネディに捧げた至高の名盤である。一曲目の「若かりし日」はアルトの頂点の一つと言っても過言ではない。
情感たっぷりに想いを乗せて吹き始め、どんどんとスピードとテンションを上げていけば聴いてる方も最高潮!最後のブリッジでブッ壊れるのもご愛嬌だ。
よく「オーバー」という表現もされるが、1968年という純ジャズが完全に曲がり角を迎えたこの時代に、これを世に問うたウッズの才能を称賛したい。もちろん他4曲も傾聴に値する。
もう時効なので語るが、ウッズのライブでのリハーサル中にこんな事があった。共演の某有名ドラマーが自分の付き人のセッティングに気に入らず、突然シンバルを舞台に投げつけるという場面があった。
袖で見ていた僕は、「さすがジャズマンは違うな・・」と驚いたが、それ以上にその様子を見ていた共演者やスタッフは何事もないようにしているのを見て「自分には向かない業界」と思い、その後すぐ退職した。
ジャズは家で独り聴くに限る。大好きなアーティストの前で正常でいられるファンはいないのだから。